ふられ男の無様さとオスカー像 ~空の穴~

今日はファンタスティックプラネットのついでに映画の話をしてみようかと思っている。


聞くところによると,菊地凜子はオスカーを取れなかったんだそうな。

正直それにはあんまり興味無いのだが,菊地凜子は俺様のフェイバリット作の一つ,『空の穴』のヒロインであったため,動向が気になったりもするのである。そういえば当時はまだ菊地百合子という名前であった。

ということで,今日は映画『空の穴』の話。
空の穴において描写された,ふられ際に必死こいて相手を引き留めようとしたり,なんだったら泣き落としなんかもしようとする,もうどうしようも無いほどの男の情けなさは,自身の経験なんかも相まって,見ているだけで胸に激痛が走るのである。これはもう連弾の竹中直人と同様の情けなさである。

これはもう本当に,見ていて嫌になるほどの情けなさ,かっこ悪さである。この2作,特に空の穴を見た後,俺様は,別れ際に泣き落としを狙わないことを心に誓ったのであった。ちなみに当時の映画紹介番組かなんかで,「恋愛中のカップルにピッタリな初々しい恋愛映画!」とかなんとか言ってるものがあったが,アホとしか言いようがない。熱々カップルにこんな残酷なもの見せてどうする。


ところで,この空の穴の監督は熊切和嘉である。空の穴は,90年代後半に「鬼畜大宴会」にて鮮烈なデビューを飾った彼の,劇場公開された2作目の監督作である。

鬼畜大宴会は,学生運動の内ゲバを描いた群像映画である。そこにあるのは圧倒的な情念と初期衝動,そしてその顕在形としての暴力とエロとグロであった。主演女優がこの映画の役作りのせいでアルコール依存症になってしまったってのも有名な話で,役者も含め,アンダーグラウンドな初期衝動に駆り立てられた面白映画である。


一方空の穴は,いちおう恋愛映画である。しかし本質は鬼畜とあんまり変わらない。相変わらず熊切の人物描写,関係の描写は残酷だし,暴力的だ。


空の穴の主人公はまともに恋愛をしたことがなく,せいぜい地元のイマイチな女性にウットリ見つめられる程度の30男である。硬派であり純情であり純粋ではあるが,未だ恋に傷ついた事はない。

そこにひょっこり菊地百合子が現れる。彼女は旅行中に彼氏とケンカし,置いてけぼりにされてしまった。そしてなんとなく主人公と出会い,彼とネンゴロになる。

主人公は浮かれる。もう見てられないほどに浮かれる。行きずりの関係に過ぎないのに,親に「おれ結婚するかもしんね」などと電話するほどである。しかし当然ながら,この行きずりの関係は,彼女から別れを告げられることで終わる。

初めての恋愛で終わりを告げられること,それは死刑宣告にも似ている。いくら主人公が泣いて叫いて不可解な行動をとったとしても,その現実は変えようがない。寺島進が情けない男を演じれば演じるほどに,この恋の最期は残酷であり,カタストロフィックだ。


この映画では結局何も起こらない。居なくなった母親の写った謎の映像も,その映像に写った風景も,そこに彼女を連れて向かう情けない主人公の姿も,何か大変な事が起こりそうな予感を生むだけで,結局何も起こらない。主人公だけが大変な一大事の中にいて,なんとか抗おうと未熟な対応をとろうとする。しかし現実は変わらないし,彼には何も起こせない。その醜く足掻く姿は痛々しく,見ていて目を背けたくなる。彼はこれをこの世の終わりとでも感じているのかもしれないが,それは彼の心的現実のお話。どっこい現実は,終わることも崩壊することもなくダラダラと続いていくのである。


結局ここに描かれているのも,圧倒的で未熟な情念と,暴力的な別れだ。抗いようのない現実に立ち向かおうとして,結局何も起こせずに捨てられる無様な男の姿だ。この残酷さは,鬼畜大宴会と変わらない。ただ描かれる対象が変わったってだけで。


なんて残酷な映画なんだろうと思うと同時に,これは情けない男を笑う映画でもある。その笑いは過去の自分にも向いた,「あの頃の俺ってばww」といった類のものである。じゃあその頃の自分と今の自分は如何ほどに違うのか。

ラスト,主人公はドライブイン「空の穴」の屋根に登り,北海道の広大な風景を眺める。なに?一皮剥けた?成長したってか?彼女を追って東京にでも行くか?なんてことを予感させるシーンだが,きっとこの男は変わらないし,何も起こせない。だから,これからもな~んにも起こらないんだろう。きっと地元のイマイチ女と結婚して終いだ。きっとこの男はあの彼女との色恋を,武勇伝として話すだろう。無様な自分の姿を隠したまま。

結局人は劇的には変わらない。きっと俺様の中にも,泣き落としてでも,ヒステリックに奇声を挙げてでも,あの恋をつなぎ止めようとした情けなくて無様な自分が居座っているのだろう。そう思うからこそ,この主人公の情けない姿は教訓である。あんな情けないことには,もう二度となりたくない。別れ際にはかっこよく颯爽と去りたいものだ。

まぁ,連弾の男のように,かっこつけて颯爽と去った後,結局は必死の形相で彼女の元に駆け寄り,「もう1回だけヤらせてくれよ~頼むよ~」なんていう情けなさもあるわけで,結局は無様な事が待っているんだって話もある。すると今の俺様にできることは,こういった事態を未然に防ぐ努力を続ける事くらいなのだろう。それもまた格好悪い話ではあるが…。



今日はこういった具合で,映画について色々と思い出していた。
本当はまだ書きたいことが残っているので,続きをまた近いうちに書きたいと思う。


空の穴<特別版>
熊切和嘉 寺島進 菊地百合子
B0000677QI

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