ミスリードするとすれば「テトリスが心の傷を癒す」

(1月16日20:00頃,追記しました)

Yahoo newsより

『テトリス』がPTSDを和らげる-英国の研究結果

これですね。論文は。

Holmes EA, James EL, Coode-Bate T, Deeprose C. (2009). Can Playing the Computer Game 'Tetris' Reduce the Build-up of Flashbacks for Trauma?' A Proposal from Cognitive Science. PLoS ONE. 4(1)

オープンアクセス。

著者はEmily A Holmes。既にImageryマニアと化している俺様としては,お馴染みの研究者だぜ。PTSDとか不安障害に対するImageryからのアプローチ。ImageryとEmotionとの関係ならこの人にお任せ。

で,別にね,「テトリスが治している」という話ではないですよ。当然のことながら。
概念のない研究者なら,そう言うでしょうけど,ところがどっこい,Holmesも概念を持っている。
あと,ゲーム脳云々なんかとも別の話,ですね。

で,詳細は以下。てか,オープンソースなので,興味があって,かつ読める人は自分で読めば良いと思う。短くて平易,かつ面白い論文でした。
という事で追記。

PTSDの主な症状としてのフラッシュバック。これを初期介入によって減らせないか,という臨床的目論見と,その発生メカニズムの検討という学術的目論見のある研究。

フラッシュバックっては,平たく言うと思い出したくもないのに,勝手に思い出してしまう記憶であって,まるでそれが目の前で再び繰り広げられているかのような,鮮明な視覚的イメージとして想起されると。それで,本人としてはとっても困ると。

じゃあ初期介入によって,その体験をあんま覚えさせなければ良くね?

人間の注意資源は限られている。つまり,何かに注意を向けると,自然に別の事柄には注意が向けられなくなる。似たような情報(この場合はVisuo-spartialな感覚知覚情報)なら,なおさら同時に注意を向けるのが難しい。で,フラッシュバックするのは鮮明な視覚的(Visuo-spartial)イメージだってので,同じ視覚的(Visuo-spartial)な課題であるテトリスをタスクとして選択。つまり,テトリスやってるもんで,さっきの惨劇に注意が向きません,ってのを狙ったわけ。

ここでワンポイント。記憶の強化を阻害したいなら,6時間以内にしろ,というのが神経生理学的な見解だそうで。という事で,外傷体験後,なるべく早くテトリス(というかVisuo-spartialな課題)をやってもらいましょう。これに関連して,頭の中でさっきの惨劇を繰り返しイメージしたり,惨劇の事を考えたりする事で,その記憶が確かに頭に残っていくわけなのだけど,テトリスやってるからそれどころじゃない。するとどうなる事が予想されるかというと,さっきの惨劇について,あんま詳しく覚えられないって事になるんじゃないかと考えた。

で,やってみた。実験は以下のような感じ。

40名の協力者(うつも不安もあんまり高くない,20代前後の人達)に,人がリアルに怪我をしたり死んだりするビデオを12分間見てもらう。見る前と見た後では,不快感がバッチリ高まってたって事で,このビデオによる実験操作はある程度できてたと言えるでしょう。んで,30分休憩。その後10分間,20名にはテトリスをやってもらい,残りの20名には何もしてもらわない。それで一旦お帰り頂きました。

その後一週間,フラッシュバックというか,まぁそのビデオの映像を思いもよらず思い出した回数を記録してもらう。んで,一週間後にもう一回実験室に来てもらい,この一週間の(フラッシュバックに関係する)精神症状について調べると。さらに,ビデオの内容をどの程度覚えているか,直接調べる(再認課題)。アウトカムはこの3つです。

テトリスやった人達は,思いもよらず思い出した回数も少なくて,精神症状も少なかった。でも,内容を覚えている程度は,どっちも変わらなかったと。つまり,どちらもビデオの内容は同じくらい覚えているけど,それが思いもよらず鮮明に思い出されてしまったり,そのせいで何らかの症状が起こったりってところでは差があったと。

ってことで,考えてた通りの結果になりましたよ。ってとこまでが,この研究。考察は色々。気になるなら一次ソースをどうぞ。




別にテトリスじゃなくても視覚的な課題であれば何でも良さげ。んで,既にフラッシュバックに悩まされている人に対して,これが有効な手だてになるかどうかは不明,というか想定しているメカニズムから考えると,有効ではない,でしょう。少なくともフラッシュバックの発生を減らすという目的においては。てか,よく倫理委員会通ったな,この研究。


これはもう,結構な釣り研究ですね。テトリスってだけでも目立つし,cognitive vaccine,つまり認知的ワクチンってことですが,これも「心のお薬」みたいなニュアンスっぽくて,どうですか釣れますかと聞きたくなる。というか,大漁だと思うけど。

「じゃあ毎日10分テトリスをやろう!」
「私が落ち着いているのは,テトリスやってるからだったのか!」
「むしろ落ちゲーはイライラするからフラッシュバック起きまくりだろワロタ」
「じゃあハットリスはどうよ」
「やっぱりゲームは素晴らしい。ゲーム脳論者涙目w」
「要は気を紛らわせれば良いのね」
「ストーリーのあるゲームの方が気が紛れるだろ」

みたいな日記がわんさか見つかって,ほんと大漁だと思う。

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