[連載]あすならないバンド道 #1 「あすなろう,犬山に」

ペペンペンペンペンペンペペーン

「ん~。もっと良いリズムないかなー」

これ見よがしなセリフを吐きながら,犬山(仮名)はアンプラグドなエレキギターをペンペン弾いた。エレキギターを弾く犬山は最高に格好良く見えた。友達たちも,犬山をキラキラした目で見ていた。ピーズのデブジャージそのものな犬山ですら最高に格好良くさせるエレキギターとやら…。欲しい。俺も犬山みたいに格好良くなりたい。エレキギターが欲しい!俺もエレキギターを弾きながら,何かそれらしい事をこれ見よがしに言ってみたい!

キース・リチャーズに憧れてギターを始めた?ジミー・ペイジだ?ジェフ・ベックだ?挙句エリック・クラプトンだと?パンクがどうした。グランジだのオルタナティヴ・ロックだの,そんなもんヘソが茶を沸かすぜ。俺は犬山の真似をしたくてギターを始めたのさ。実際,あの時の犬山ほどに格好良いギタリストなんて,見たことが無いくらいだ。

俺は母親に懇願してお年玉貯金を切り崩し,近所の楽器屋でFERNANDESのエレキギターを買った。紫色にグラデーションのかかったダサいエレキギターだった。40000円は当時中1だった俺には少しばかり高かった。しかし,いくらダサくても,いくら高くても,俺にはそいつが輝いて見えた。楽器屋からの帰り道,ギターケースを肩に掛けた俺は,商店街を立ちこぎで走り抜けた。

ギターと同時に買った「エレキギター超入門」。犬山の真似をして買った音叉。そしてピック。俺には全てが誇らしかった。まだまだギターは弾けなかったけれど,俺には犬山という目標があったから,練習は毎日できた。いくら部活で疲れていようと,いつだってギターを練習した。すると大抵,一階に居る母親か,隣の部屋の兄から苦情が出た。「ちっ,俺の格好良さが分からないなんて,シケたやつらだぜ」と思ったが,苦情には素直に従った。

その内俺は「コード」の存在を知り,その練習に力を注いだ。犬山は単音でペンペン弾くだけだ。コードをジャラ~ンと鳴らせば,きっと犬山よりも格好良い。その一心で,俺はFコードを習得した。その頃には,左手の指先がタコでカチコチになっていた。Fコードも指のカチコチも,俺にはとても誇らしく思えた。

俺はギターの弦をよく切った。アンプに繋がないペンペンなエレキギターを引き続けたせいで,ピッキングが凶悪なほど強くなっていたからだ。俺はすぐに「エレキギター超入門」を読み解き,弦の張替えに取り組んだ。1弦を何度もペグで巻き切りながら,ようやく習得した。そこではじめて,音叉の使い道を知った。音叉を叩いて咥えると,5弦と同じAの音がなる。音叉と5弦を同時に鳴らして,倍音のウォンウォンいう感じが消えたとき,それがチューニングの合った状態であると知った。

ここまで来て,俺はようやく友人に自慢した。いやーギター弾きすぎて指カチコチでサー。弦の張替えってすげー危ないんだゼー。Fコードの練習って最高に大変だけど続ければ誰でもできるッテ。残念ながら,その頃にはもう,皆のギターへの興味は失われていた。そう,俺は取り残されたのだ。

しかし,俺はもう引っ込みがきかなかった。その頃には,ギターを弾くことが好きになっていたからだ。ギターを買う前,俺はビーズや氷室京介ばかり聴いていた。特にビーズは7th Bluesまでなら全曲歌詞見ずに歌えるくらい聴き狂った。しかしもうその頃には,ミッシェルガンエレファント,ハイスタンダード,オアシスといった,クラスメイトの聴かないロックンロールに,心底しびれてしまっていたのだ。

その頃の俺は,自分は将来格好良いギタリストになるんだろうなぁと思っていた。プロのミュージシャンになって,これ見よがしにギターを弾きまくった犬山のような格好良い存在に,いつかきっと自分もなれるんだろうなと,ぼんやり考えていた。

なろう。なろう。あすなろう。明日は犬山になろう。

迂闊にも,中2の俺は,心からそう思っていたのだった。

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